2015年4月22日水曜日

ホームホスピス かあさんの家


民家のもつ力
10年ほど前、宮崎市で市原美穂さんが立ち上げた看取りの家、「ホームホスピス・かあさんの家」の仲間が増えてきました。九州に5,関西7,関東2,東北1の計17箇所。さらに予定候補が10カ所と確実に全国に根付きはじめています。
ホームホスピスを立ちあげるためにまず取り組むのは家さがしです。新しく建てる「家」ではなく、以前からその地域で誰かが住んでいた「家」です。ホームホスピスは「民家」を借りるところからスタートしています。

――なぜ、民家でしょうか。市原美穂さんは新著『暮らしの中で逝く』(木星舎)で、民家のもつ包容力について専門家(園田眞理子)のことばを載せています。
「建物って時間を経たものほど鍛えられているのでパワーがあるんですよ。居心地が悪いものはやはり寿命が短い。だて、みんなが手塩にかけて育てて、生き延びてこられたってことはその建物はすごく生命力があることですから。建物にも競争が働いていて、居心地が悪いものはどこかで壊されたりする。時間が経過して、そこに住んでいた人が慈しんだ場所ほどクオリティが高い」
木造の日本家屋がもつ温もり、襖や障子で区切られたほどよいプライバシーを保つ部屋、家のどこにいても人の気配が感じられる空間。ご飯が炊けるにおい、玄関でおしゃべりしている声が聞こえる…、できるなら食器棚や本棚、タンスにテーブルまでそのまま使わせてもらえる「空き民家」を借りるのです。

先ごろ、訪ねた「ホームホスピス・かあさんの家」の仲間である「ホームホスピス・たんがくの家」(福岡県久留米市)も古民家を改修したもので、広い敷地内には70坪の畑もあります。「たんがく」とは、地元の伝統芸能の田楽(でんがく)の方言ですが、あわせて当地では蛙(カエル)の呼び名だともいいます。名称へのこだわりは、地域ケアに対する独自な指針、それに地元への愛着が反映します。「NPO法人たんがく」の理事長樋口千恵子さんのライフワークとして、また在宅医療に関わってきた看護職の集大成として4年前に誕生したのです。

――「ホームホスピス・たんがくの家」はどういう人の不安に応えようとしているのですか。(案内ちらしから)
「家で看たかばってん、腰の曲がったばあちゃんしかおらん。若いもんは働きよるけん看られん」
「がんの末期たい。できるだけ看たかばってん、病状がひどなったら看きらんごとなる。畳の上で逝かせたか」
「認知症のじいちゃんば看よるたい。心臓も悪かけん不安たい」
「どうにか一人で暮らしよる母ばってん、いつ具合が悪くなるか心配たい」
「車いすで退院するたい。息子が『東京においで』と言うてくれるばってん行こごとなか。ばってん、一人じゃ不安たい」
「家内が一生懸命、寝たきりのばあちゃんば看てくれよる。ばってん、もう無理のごたる」
「たんがくの家」はこのような思いをすくい取って、その現実を受けとめる場所になっているのです。
「たんがくの家」は古い障子やふすまをそのまま残して、縁側からは陽が差し込み、窓越しに見える近所の人の暮らし(畑仕事や田のあぜ道に腰を降ろして話し込んでいる様子など)が見え、家の中ではご飯の準備をする音、みそ汁の匂い、こどもの笑い声が聞こえたりして、病棟・病室や施設からは無縁な“自分の家”の日常になっていました。そこでスタッフとともに地元の在宅医や訪問看護師、ヘルパー、ボランティアなど様々な職種の人たちが365日かかわり、24時間支えているのです。
(この項は次回に続きます

1 件のコメント:

Kon さんのコメント...

このような場所があると、例え家族に介護者がいなくても、最期まで普通の暮らしから離れずに過ごせるのですね。
病気や末期になっても人間として人間らしく家らしい家に本当は居たいです。
それが不可能でないのが興味深くて、嬉しいことです。